中国山地幻視行~高岳・沢に転落の一件 [中国山地幻視行]
中国山地幻視行~高岳・沢に転落の一件
空は晴れていた。ルンルン気分で杉林を行った。…目の前の光景が、どこか違っていた。
橋がない。いや、橋はあった。真ん中がぽきりと折れ、渡れる状態ではなかった。落ち込んだ中央部に松の倒木があり、これが腐りかけた橋を直撃したに違いなかった。
4月17日、広島・島根県境の高岳(1054㍍)に向かう。
沢沿いをさかのぼり、渡渉地点を探す。かつては橋がなく、こうして渡っていた。最近は石垣などで整備が進み、その分渡るのは困難になった。
それらしい場所を探し、じゃぶじゃぶと渡った。対岸の崖は思ったより軟らかく、登るのに手間取った。
尾根伝いに快適な山道が続く。早春の木々はモノクロのたたずまいだったが、ところどころ淡いピンクの塊が宙に浮いていた。近づいて見ると、アカヤシオのようだった。やがて上りが増え始めると、右手に聖湖面が光って見えた。
山頂は、きれいに刈り込まれていた。さっぱりしてはいるが、ここまで人工的なにおいがするのはどんなものか。そんな思いもした。黄砂のせいか春霞のせいか、臥龍山も恐羅漢山も霞んでいた。
帰途。あの沢をもう一度渡らなければならない。上りと同じ地点を下った。手ごろな場所に木の枝があり、しがみついた。途端にずるり。わが身は仰向けのカエル状態で沢の中。ザックがクッションになり上半身は無事だったが、下半身はずぶぬれ。対岸にたどり着き、しばらく息を整える羽目に。
この事件がなければ、きょう一日いい日だったのにな。
中国山地幻視行~恐羅漢山・物語のこちら側 [中国山地幻視行]
中国山地幻視行~恐羅漢山・物語のこちら側
中国自動車道の戸河内ICを降りてしばらく、満開の桜の花吹雪をくぐった。しかし、恐羅漢山の駐車場から眺めた景色は冬の色をしていた。荒い息を吐きたどり着いたゲレンデ上部には汚れた雪の塊があった。季節の流れにあらがっているようだった。
標高1346㍍の山頂は冬枯れていた。木々は孤独なたたずまいで春を待っていた。登ってくる人もいない岩陰で昼食をとった。吹き来る風と光だけが次の季節の色をしていた。(4月3日)