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山岳美と厚みのある人生ドラマ~山の映画館 [山の図書館・映画館]


山岳美と厚みのある人生ドラマ~山の映画館


「帰れない山」

 北イタリアのモンテ・ローザ周辺を背景に、出会った二人の少年の友情、父との確執、生き方の模索が描かれる。「国際的ベストセラー小説」とのことだが、原作は未読。稜線の風景は美しく、かといって背景は美しいがドラマは貧弱…といった、ありがちな山岳映画ではない。一方で、長尺の割にところどころ説明不足の感があるのは、作り手が原作に頼りすぎたせいか。読んでいれば補完され、面白さは倍増したかも。

 イタリア・トリノに育ったピエトロ(ルーボ・パルビエロ)は両親とともにモンテ・ローザ山麓グラーノ村で夏を過ごした。そこで牛飼いをしている同い年の少年(12歳?)ブルーノ(クリスティアーノ・サッセッラ)と仲良くなる。ある年、山好きの父ジョヴァンニ(フィリッポ・ティーニ)は二人を連れ、氷河に向かった。途中で村人に「子供連れは危険だよ」と忠告を受けながら…。大きなクレバスを、父とブルーノは飛び越えたがピエトロは高山病で越えられず、3人は引き返した。そんな気まずい体験から、ピエトロは山から遠ざかる。父はブルーノとたびたびモンテ・ローザの山々を歩いた。
 ジョヴァンニは、教育を受けさせるためブルーノを引き取りたいと考えていた。しかし、ブルーノの父が拒絶したため、建築現場で働く。一方、ピエトロは父への反発から大学へ行かず、アルバイトで暮らした。そんな折り、父の急死の報が届いた。ピエトロ31歳、ジョヴァンニ61歳だった。
 父はモンテ・ローザの稜線に山小屋を建てる計画を持っていた。その夢をピエトロ(ルカ・マリネッリ)とブルーノ(アレッサンドロ・ボルギ)に託したのだった。建築技術を持つブルーノの主導で小屋は建てられ、牛飼い経験を生かして牧場とチーズ作りが始まった。ブルーノは山の民になった。ピエトロはチベットなどを訪れ、細々とだが本を出版した。この世界に「いどころ」を見つけたのだ。しかし、ブルーノの人生は平たんではなかった。借金が生活を圧迫した。ある年の冬、連絡が取れなくなった山小屋に救援ヘリが向かう。ブルーノは不在だった。

 タイトル「帰れない山」には解説がいる。原題「Le otto montagne」は、直訳すると「八つの山」。古代インドの世界観で、中央に須弥山という一段高い山、周辺に八つの山がある。映画でもチベットを旅したピエトロがこの話をする。須弥山は一度登ると降りることができない。途中で降りたものは周辺の八つの山を永遠に放浪するとこになる、こんな話だった。ブルーノが登っているのは須弥山、つまり「帰れない山」でピエトロは八つの山を放浪している、こんな人生観を暗に語っている。

 ラストシーン。雪解けのころ、鳥が亡骸をついばむ。ピエトロがチベットで聞いた鳥葬を類推させる。このシーンとタイトルから、物語の背景に仏教的無常観があることが分かる。
 2022年、イタリア・ベルギー・フランス合作。監督フェリックス・バン・ヒュルーニンゲン 、シャルロッテ・ファンデルメールシュ。原作パオロ・コニェッティ。

 でもまあ、あんな景色のいいところに小屋を建てて、自給自足で生活できたら、というのは夢ではありますね。モンテ・ローザとかドロミテとか、一度は現地で見てみたい。


帰れない山.jpg

 


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