パッと咲いた今年の桜~四季・彩時記 [四季・彩時記]
パッと咲いた今年の桜~四季・彩時記
今年の桜はじわじわっとでなくパッと咲いた。ある人の弁である。春の来るのが早かったこともあり、唐突感があった。そんなわけで3月28日、慌ただしく広島近郊の中国山地を見て回った。タイミングはぴたり、空は快晴だった。
中国山地幻視行~深入山・冬と春の間 [中国山地幻視行]
中国山地幻視行~深入山・冬と春の間
3月20日、久しぶりに島根県境近くの深入山(1153㍍)へ向かった。雪も解けているころ、と期待してのことだった。
南登山口の駐車場に車を置いた。案内所はべニア板で冬囲いしたままだった。山は冬枯れの木々が立ち尽くし、草原は勢いを失っていた。手元の気温計を見ると20度は優に越していたが、北から冷たい風が吹き付け、体感温度は低かった。冬ではないが春でもなかった。翌21日は春分の日。
枯れた草原へ足を踏み出した。少し経てば、あたりは新緑でおおわれることだろう。振り向けば、広島県内最高峰・恐羅漢山が雪を頂いて立っていた。半月後あたりに登ってみよう。そのころ、雪は消えているだろうか。
山頂に着くと、しばらくしていくつかのグループが登ってきた。相変わらず北風が冷たかったが、にわかに付近は賑やかになった。一人が小さなドローンを持ってきていた。山頂広場は、飛ばすにはちょうどいい。そう思いながら見ていた。
「この風で、落ちたりしませんか」
「いや、大丈夫です。マニュアルによると10㍍ぐらいは平気らしいですから」
たしかに、この日の風速は10㍍はなさそうだった。
山頂から北側へ回りあずまや横を抜けると、100㍍ほど山道は残雪に覆われていた。あとは春の日差しを浴びた、快適な落ち葉の道だった。
中国山地幻視行~窓が山・虫のごとく斜面を這う [中国山地幻視行]
中国山地幻視行~窓が山・虫のごとく斜面を這う
啓蟄の3月6日、土中から這い出た虫のごとく、急斜面に取り付いた。
窓が山。中央に大きなキレットがあり、ピークを二つ持つ。登頂の楽しみが二度味わえるという良さも持つが、屏風のようにそそり立つ山容。標高は700㍍ほどにすぎないが、魚切からの急登はなかなか手ごわい。そのうえ、最近は奥畑からの中央登山道が人気があるらしく(ピークまで30分ほどで着いてしまう)、1時間半はかかる魚切コースは敬遠されがちのようで、道も荒れている。
登山口を過ぎると、山道はイノシシが掘り返した跡が続く。倒木が行く手をふさぐ。辛抱して登ると、頂上に近くなるほど傾斜が急になる。最後は岩登りである。視界はない。
西峰のピークで一瞬の眺望を楽しんだ後、キレットの底へ向かう。途中、終戦前年のゼロ戦衝突事故の犠牲者を祭る小さな祠の案内板。通るたび、粛然とした思いになる。
鎖場があり、再び登りにかかる。海側の眺望が開けると東峰の小さな広場。見上げると雲一つない。最高の天気だ。海が輝いている。足元の魚切ダムの湖面も、陽光がきらめく。
帰りもまた、二つのピークを経由して下った。西峰が東峰より高いが、その差はわずか60㌢。ほぼ相似形と言っていい山容が、戦時中のゼロ戦激突でもわかる通り、急峻にそそり立つ。興味深い山である。