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素材としては抜群に面白いのだが~山の図書館 [山の図書館・映画館]

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「死に山 世界一不気味な遭難事故 ≪ディアトロフ峠事件≫の真相」(ドニー・アイカー著)

 

 ソ連(当時)のウラル山脈北部で1959年冬、不可解な遭難事故が起きたという。死者はトレッキング中の9人。いずれもウラル工科大(当時)の学生、OBだった。事故があった山はマンシ族の言葉で「死の山」を意味するホラチャフリと呼ばれ、遭難地域はリーダーの名前をとってディアトロフ峠と名付けられた。冷戦下のソ連で長く秘密にされたが、半世紀以上たって米国のジャーナリストが事故の存在を聞きつけ調査に乗り出した。その顛末を書いたのが本書である。

 事故があった地点は障害物のないだだっ広い山麓で、発見された時、テントはほぼそのまま残されていた。6人は付近の山林などで凍死体で、3人は重い傷を負った末の死体として見つかり、衣服はまともに着ていなかった。いずれも靴を履いていなかった。一人は舌がなかった。

 現地で事件の真相を追っていたディアトロフ財団理事長のクンツェヴィッチに会った「私」は彼の手助けを得て調査の網を広げる―。

 以降は、事故のあった1959年と2012年(一部2010年)を行き来する。半世紀を隔てて明確に記述が分かれているのは、読む方としてはありがたい。

 調査の結果、いくつかの説が浮かび上がった。現地住民による襲撃、雪崩や強風による自然災害、武装集団の襲撃、極秘ミサイル実験の結果、放射線関連実験の結果…。しかし、決め手はなかった。現地住民が襲うというのは普段の行動からして考えられなかったし、居住地から100㌔も離れた場所で起きたことだった。自然災害説も、テントがそのままである以上、説明できない部分が多かった。そのほかも、根拠となるものはなかった。

 1958年に数百人が死亡した「ウラルの核惨事」の存在が1970年代に明らかになったが、この事故の影響を考えるには、被曝量(死体の一部からは正常値以上の数値が確認されたという)が、あまりにも低かった。

 手詰まりの中、著者は超低周波説に行きつく。事故当時、現場は強風が吹き荒れ、山の形状によって超低周波(カルマン渦列)を引き起こし、テントの9人に不快感や恐怖感を生み出したというのだ。パニックになった9人はテントから厳寒の雪原に飛び出し、ある者は凍死し、ある者は崖下に落ちて致命的な傷を負った…。超低周波の研究は2000年以降に本格化し、事故当時は推論さえも成り立たなかったという。

 さて、こうして一件落着、というには何か物足りない。確かに「ありえない」説を否定していった結果、残ったものが低周波説であったにせよ、それは「可能性として否定できない」レベルである。さらに一歩進めて「これしかない」と断定するには何かが足りない。結局はそれが食い足りなさにつながっている。素材として抜群に面白いのは間違いないのだが。

 河出書房新社、2350円(税別)。著者はフロリダ在住、映画、テレビの監督、製作者。

 

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

  • 作者: ドニー・アイカー
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2018/08/25
  • メディア: 単行本

 


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