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文明の源流を考える~関野吉晴氏の講演 [山の図書館・映画館]

文明の源流を考える~関野吉晴氏の講演


 探検家・関野吉晴氏の講演を聞く機会があった。9月26日、主催は広島県山岳連盟。場所は広島市内である。
 気になってはいるが、なかなかその著書や講演に触れる機会がない、という人物がいる。関野氏もその一人であった。探検家であり医師であり、なにより発想のスケールに感嘆する。人類は約20万年前にアフリカの地溝帯で生まれ、ヨーロッパから中東、アジアをへてアメリカ大陸に渡り原住民となるが、後のヨーロッパ大航海時代に襲来したスペイン軍によって大量虐殺され支配される。その経緯はジャレド・ダイアモンドの「銃・鉄・病原菌」(草思社)に詳しいが、そのルートを南米大陸から逆にたどろうというのが、関野氏の考えた「グレート・ジャーニー」である。
 もちろん、1時間強の講演で巨大な旅の全容を語ることは難しく、人類の大移動の概要と、最近実行したインドネシアから日本への「旅」に大半の時間が割かれた。
 関野氏はまず、「グレート・ジャーニー」を始めた動機について、アマゾン源流探検が最初にあったと語った。ペルーの高地からアマゾンを下る際、現地に住むインディオたちはどこから来たのか、という素朴な疑問をまず持ち、人類発祥の地であるアフリカ大陸からのルートを逆行してみようと考えたという。
 この話の中で、彼は興味深い視点を提示した。人類はなぜ、地球上で他の生物を支配する存在になったのかという問いに対して「二足歩行」を選択したこと、と答えたことである。さまざまな動作をするうえで不安定であり、骨格上からも不自然である二足歩行はしかし、ゆっくりではあるが長時間の移動を可能にした。これが人類の人類たるゆえんである、と彼は語っていた。
 インドネシアから石垣島への旅は、「日本人はどこから来たか」というテーマで考えうるいくつかのルートの一つで「新グレート・ジャーニー」と名付けられている。手作りカヌーに帆をつけ、2008年にプロジェクトをスタート。航海は風待ちや手漕ぎも入れ3年がかりで達成された。「手作り」は、木を加工するための刃物も砂鉄からたたら製法を用いて作るという徹底ぶりで、船体も自然林から切り出した。帆もヤシの繊維を編んだものという。
 面白かったのは、鉄を作った経験談。5㌔の工具を作るのに120㌔の砂鉄と300㌔の炭を要し、炭を作るのに岩手の赤松3㌧を要したという。そして、歴史を見ればわかるが、一度「鉄」を手にした人類が鉄を捨てることはなかった。このことは地球のありようを何らかの形で変えていく。ジャレド・ダイアモンドの「文明崩壊」(草思社)は人類が森と共存しながら森を消滅させたことが文明を崩壊させた一因になっていると指摘するが、そのことを連想させる。
 最後に、さまざまな「ジャーニー」の体験を踏まえて「自然は知ることはできても操作することはできない」という関野氏の言葉が印象的だった。


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講演する関野氏
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インドネシア~石垣島の旅の紹介の一場面


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