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山の図書館~「ヒラリー自伝」(E・ヒラリー著) [山の図書館・映画館]

山の図書館~「ヒラリー自伝」(E・ヒラリー著)

  本田靖春の著作「K2に憑かれた男たち」(1979年刊)は、世界第二の高峰を目指す一匹狼たちの物語である。この書には白髪、ひげの男の写真が載っている。吉沢一郎。70歳をすぎ、K2頂上への道を率いた男である。その吉沢の、もう一つの顔。
 1975年、エヴェレストの初登頂者ヒラリー卿が来日。案内をしたのが吉沢だった。なぜヒラリーと面識があったのか。多くの著作の翻訳者でもあったからである。
 この年「山と渓谷」に寄稿した吉沢の文章から。
 「開けっ放しの性質が行間ににじみ出ている、ということである。つまりケチケチしたずるさがないということにもなろうか。彼はいわゆる芸術家でも学者でもない。早く言えばエヴェレストへたまたま一番乗りをした蜂蜜屋の兄ちゃんであった」(「自伝」から引用)
 自伝にはヒラリーの写真が何枚か収められている。「ヴィクトリアで名誉法学博士号を授けられるヒラリー卿」は、吉沢が描くそのままの横顔だ。
 
山の図書館ヒラリー自伝blog.JPG

 「ヒラリー自伝」(草思社)

 エヴェレスト登頂後ヒラリーは米国を訪れ、大統領からメダルを贈られる。「アメリカ訪問は楽しめたとはとても言えない。(略)自分たちとはほとんど共通したところのない階層に属する人びとから名士扱いされた。(略)あらためてこの国を訪れる機会に恵まれなくても別に心残りではない(略)」。
 しかし当然のことながら、ただの素朴な男ではない。登山に関しては精緻な記録を紡いでいく。
 「四分の三入っていたボンベを使い切ったので、それを棄て、今度は軽い九㌔のボンベをつけた。(略)我々は1分間に3㍑ずつ吸った。(略)高度を上げないようにして、固く凍った雪にステップを切りはじめた」。「ついに私は、とびきり大きな瘤の背にステップを切り()ゆるい雪稜を登りきった。目標に到達したことがすぐに分かった。(略)エヴェレストの頂上に立ったのだ」
 ヒラリーは自伝の後半で次のように書く。
 「これまで私は新しい冒険を見つけるのに苦労したことは一度もなかった。いちばん苦労したのは、それを実行する時間を見つけることだった」
 原題は「NOTHING VENTURE, NOTHING WIN」。「冒険のない人生なんて」とつぶやいているようだ。たまたまエヴェレストがそこにあったから、と言っているかのようなニュージーランド生まれの男の人生がある。  

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鶴

ご訪問&nice有難うございました
山登りの体力はありませんが 憧れます
by (2009-11-21 23:59) 

asa

鶴さん、コメントありがとうございました

by asa (2009-11-22 08:05) 

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