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山の図書館~単独行(加藤文太郎著) [山の図書館・映画館]

 山の図書館~単独行(加藤文太郎著)

 昭和11年1月、槍ヶ岳の北鎌尾根で遭難死した登山家の遺稿集。単独行動のスタイルを生涯貫いたが、最期だけは違っていたという。彼をモデルにした小説「孤高の人」から引用する。 彼がなぜ死んだか―それは、そのとき彼が単独行の加藤文太郎ではなかったからだ、山においては自分しか信用できないと考えていた彼が、たった一度、友人と一緒にパーティーを組んだ。そして彼は、その友人とともに吹雪の北鎌尾根に消えたのだ。
 著者の新田次郎は加藤を「用心深く、合理的」な性格の持ち主として描く。その彼が複数での行動を迫られたとき、いつもと違う状況を受け入れざるを得なくなった、ということだろうか。
 
山の図書館単独行2.jpg
 加藤文太郎著「単独行」(二見書房刊)

 このなぞを解くために「単独行」を読み進む。新田が描く加藤とは少し違う側面が行間から立ち上る。自然や山との対話で、驚くほどの饒舌ぶりを見せるのである。「槍肩の西斜面は風がよく当たるので、快晴の日でもあまり温度は昇らないらしく、雪は単に風成板状になっているだけで、東斜面のように凍ってはいなかった」で始まる「槍から双六岳および笠ヶ岳」の章。42字詰めで一気に52行、改行なしで書ききる。前かがみに登り詰めるスタイルが目に浮かぶようだ。
 昭和4年1月1日、八ヶ岳への山行では「なぜ僕は、ただ一人で呼吸が蒲団に凍るような寒さをしのび、凍った蒲鉾ばかりを食って(中略)淋しい生活を自ら求めるのだろう」と人間の一端をのぞかせる。

 国内のあらゆる冬山を踏破することで「不世出」と呼ばれた男の体温が伝わる一冊である。


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