山の図書館~単独行(加藤文太郎著) [山の図書館・映画館]
山の図書館~単独行(加藤文太郎著) |
著者の新田次郎は加藤を「用心深く、合理的」な性格の持ち主として描く。その彼が複数での行動を迫られたとき、いつもと違う状況を受け入れざるを得なくなった、ということだろうか。
加藤文太郎著「単独行」(二見書房刊) |
このなぞを解くために「単独行」を読み進む。新田が描く加藤とは少し違う側面が行間から立ち上る。自然や山との対話で、驚くほどの饒舌ぶりを見せるのである。「槍肩の西斜面は風がよく当たるので、快晴の日でもあまり温度は昇らないらしく、雪は単に風成板状になっているだけで、東斜面のように凍ってはいなかった」で始まる「槍から双六岳および笠ヶ岳」の章。42字詰めで一気に52行、改行なしで書ききる。前かがみに登り詰めるスタイルが目に浮かぶようだ。
昭和4年1月1日、八ヶ岳への山行では「なぜ僕は、ただ一人で呼吸が蒲団に凍るような寒さをしのび、凍った蒲鉾ばかりを食って(中略)淋しい生活を自ら求めるのだろう」と人間の一端をのぞかせる。
国内のあらゆる冬山を踏破することで「不世出」と呼ばれた男の体温が伝わる一冊である。
2009-09-02 10:39
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