中国山地幻視行~鬼ヶ城山・新調の頂上標識を見に [中国山地幻視行]
中国山地幻視行~鬼ヶ城山・新調の頂上標識を見に
鈴が峰から鬼ヶ城山に向かう縦走路を下っていると、後ろから消え入りそうな声で「すみません…」とあった。振り向くと小柄な、比較的年配の女性が立っていた。先を譲った。「どちらまで?」と聞かれ「鬼ヶ城」と答えた。
「最近、頂上の標識を新しくしたので、と知人から連絡があり、見に行くんです」
「そういえば、立派なのが立っていましたね。市か何かが立て替えたんですか」
「いいえ、この近くに住む知人とそのグループが立て替えたんだそうですよ」
「まあ、そうですか。ありがたいことですね。それにしても立派な標識です」
「そうですか。楽しみです」
これだけの会話を残すと、女性はさっさと行ってしまった。歩きなれているのだろう、音もなく、といった形容がぴったりで、あっというまに視界から消えてしまった。鈴ヶ峰と鬼ヶ城の鞍部まで降り、登り返す。路傍にはキキョウが一輪。気のせいか、尾根を渡る風も秋めいている。キキョウにはやはり、秋の風が似合う。
前方に八畳岩が見えてきた。登りも、もうすぐ終わる。そんなことを思っていると、頭上から「ご苦労様」と声がした。先ほどの女性である。どうやら、鬼ヶ城から折り返してきたらしい。やはり音もなくすれ違い、降りていった。
鬼ヶ城の山頂には、真新しい標識が立っていた。山名の下には「二八二・四米」とある。300㍍に届かないこの山への、地元の人たちの愛情がこもった、立派な標識であった。
2018-08-17 17:50
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