北アルプス幻視行~槍ヶ岳を見にいく(上) [北アルプス幻視行]
北アルプス幻視行~槍ヶ岳を見にいく(上)
遠雷がなっている。登山道わきに腰かけた女性が不安そうな目で語りかけた。稜線じゃないので大丈夫でしょう、と答えた。大きなザック。キャンプをするのだという。
小池新道。8月25日早朝に自宅を出、わさび平小屋に泊まった。台風が相次いで来襲する中、タイミングを見計らったつもりだった。しかし東シナ海に低気圧が居座り、長い雨雲が北陸から北アルプス方面に向け伸びていた。この雨雲が北上したり、南下したりするたび、天候の激変が予想された。どこまで行けるか、確信はなかった。不安を見透かすように、わさび平小屋では夜半、豪雨がトタン屋根を打ち、その音にたびたび目を覚まされた。
鏡平までの小池新道を登るのは、記憶をたどると11年ぶりだった。台風の通過直後で26日も南風が吹き込み、蒸し暑かった。それよりも、この11年で失った体力の大きさが恨めしかった。小池新道は昔のそれとは全く違う表情で、目の前にあった。
鏡平に着いたのは正午に近いころだった。鏡池で一息つく。目の前の槍・穂高連峰はガスの中だった。それでも、と思い、昼飯の準備に取り掛かった。間もなく、ステージの緞帳が上がるようにガスが切れ始めた。まるで、この老いぼれが着くのを待っていたかのようだった。
2018-08-31 11:13
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