中国山地幻視行~吉和冠・ある調査 [中国山地幻視行]
中国山地幻視行~吉和冠・ある調査
山頂に着いたのは、正午を少し回ったころだった。山名の標識がある地点から少し北東に歩くと、眺めの良い場所がある。しかし、この日はあいにく、視界は開けていなかった。先客がいた。作業服の上下に長靴と、山歩きには見えない服装だった。腹が減っていたので、かまわず昼飯の支度に入った。ガスコンロを取り出し、湯を沸かす。握り飯、カップヌードル、バナナ、チョコレート、コーヒー。これが、口に入れるものすべてである。
「あの…」
突然、頭上から声がした。作業服のオヤジさんである。
「私今から、ここを降ります。でもまねして下りないでくださいね。これは調査ですから」
私の立っている場所から先は、雑木が密集しているため高度感はないのだが、よくよくのぞきこむと真っすぐ切り立っている。本当は足がすくむほどの絶壁なのだ。
「まあ、普通の人はそこを下りませんよね」
「そうですね」
「ルートらしきものはあるんですか」
「いや、多分ないでしょう」
「ガサゴソ…」
作業服のオヤジさんは雑木をかき分け、なんでもないかのように下りて行った。
静寂が戻って、昼飯を食った。
なんの調査だろう? 聞けばよかったな。
2012-09-12 19:42
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コメント(2)
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何の調査なのか、気になりますね。
by Jetstream777 (2012-09-13 21:47)
≫Jetstream777さん
山の植生調査か、地質の調査か…。
不思議です。ひょっとすると幻だったかも。
by asa (2012-09-14 18:12)