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山の図書館~ラインホルト・メスナー自伝 [山の図書館・映画館]

 

 山の図書館~ラインホルト・メスナー自伝

 8,000m峰全14座登頂、エベレスト無酸素単独登頂。いまさら説明するまでもない、傑出したキャリアを持つ登山家である。しかし、彼自身に対する評価はさまざまだ。毀誉褒貶といってもいい。その彼が人生を振り返った。
 原題は「FREE SPIRIT A CLIMBERS LIFE」。「自由なる精神」あるいは「自由を求めて」と訳せばいいだろうか。実は、この言葉の意味合いが著書の前半と後半で微妙に違ってくる。彼の精神の足取りがこめられているかのように。
 イタリア・ドロミテの壁をくる日もくる日も登り続けた少年時代。「自由という地上の楽園にもっとも近いところにいるのが登山家」と語り、山頂に腰掛けて「無限の生命」と「一直線の未来への道」を感じる。そして、圧倒的なクライミングの記録が連なる。壁の小さな突起の一つ一つ、溝の具合、それらを微細に記憶し再現する。登山家としての才能とともに、その能力に舌を巻く。「(ぼくの講演を聞きにきた)彼らの見果てぬ夢を代わりに実現する役を引き受けたのである」という自負心がのぞく。

 
山の図書館―メスナー自伝.JPG

 「ラインホルトメスナー自伝」(TBSブリタニカ刊)

 

 そのトーンが変化するのは、ナンガ・パルバットで同行した弟が遭難死してからだ。「冒険家とは職業でなく一つの生き方」と語り、哲学の影を帯び始める。エベレスト単独登頂の際の体験。標高7,800㍍でビバークしながら、脈絡なくある男を思い浮かべる。「(その男と)同様にぼくも頭がおかしいのだろうか」。そして山頂。「これ以上なにもできないことは分かっていた。できることは立ち上がってこの山を降りていくことだけだった」
 40歳を過ぎた夏、チベットを徒歩で縦断する。「ヒマラヤより高い山に登ることは不可能だし単独行より少人数の遠征などありはしない」とするメスナーの一つの答えが語られる。野望もなく単に旅をする。(登山家としての)努力をやめたことでの平穏。自然回帰。南極に向かい、ひたすら歩き続ける。無窮のときの流れ。苦の絶滅=仏教の「滅諦」の教義への到達。
 「超人」と呼ばれた男の栄光と苦しみがまぎれもなく、ある。 


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