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山が主役と思えば楽しめます~映画「春を背負って」 [山の図書館・映画館]


山が主役と思えば楽しめます~映画「春を背負って」

 原作は笹本稜平。彼にしては、作品の舞台を高山ではなく身近な低山、奥秩父に求めている。もちろんそこには彼流の計算があり、壮絶な山岳風景を硬質な文章で表すことで作品の重量を出すのではなく、人間の情の通いあいの部分でドラマの重量を出そうとしていたと思われる。主役はあくまで人間で、山は脇役であった。

 しかし、映画では山岳と人間ドラマの位置関係ががらりと変わっている。もちろん、それは善し悪しの話ではなく、文字媒体と映像媒体の違いを考えてのことだろう。

 監督は山岳撮影で定評のある木村大作。2009年の「剱岳 点の記」も、新田次郎のしっかりとした原作がありながら、主役は剱岳そのものだった。

 外資系会社(と思われる)のトレーダーだった長峯亨(松山ケンイチ)が、山小屋を営む父(小林薫)の突然の死に直面し、会社を辞めて小屋を引き継ぐところから始まる。そこに、かつて父に助けられ小屋に住みついた高澤愛(蒼井優)や、大学の山岳部で父の後輩だったゴロさん(豊川悦司)、そして亨の母・菫(壇ふみ)らが絡み、亨もなんとか山小屋の主人らしくなっていく…。映画「春を背負って」は、ざっとこんなストーリーである。亨が、転身にあたってほとんど葛藤を見せないこと、その後も、ほぼ順風満帆であることなど、ドラマ的な奥行きはない。

 しかし、それでいいのだろうとも思う。これだけの大自然を見せられた時、人間の存在や感情の起伏が織りなすドラマなど、あまりにもちっぽけだからだ。

 要は、山小屋の周辺に広がる四季折々の山岳風景を楽しめばいい、そんな映画である。原作の後景にあった奥秩父が立山連峰・大汝山に置き換えられた時点で、例えば「山での死」を常に介在させながら人情話を重ねていく、といった原作の色彩は望むべくもないのだが、逆に言えば、これほど単色で一直線のストーリーだからこそ、3000㍍級の山々の雄大な景色が我々を楽しませてくれる、ということであろう。

 
映画「春を背負って」.jpg




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よしころん

豪雨被害大丈夫でしょうか・・・
大事ありませんようお祈りしております。
by よしころん (2014-08-20 09:14) 

asa

≫よしころんさま
ありがとうございます
広島市北部は大変な被害でした。知人もおり、心配していますがいまのところ被害は聞いていません
我が家は広島市の西の端にあり、山も迫っていないので被害はありませんでした
これだけの人的被害は記憶にありません
それにしても、未明の雷鳴と豪雨はすごかったです。
by asa (2014-08-20 14:25) 

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