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山の図書館~「エベレストの神話」に挑む [山の図書館・映画館]

山の図書館~「エベレストの神話」に挑む 

「マロリーは二度死んだ」(ラインホルト・メスナー著) 

ジョージ・マロリー。1886年、イギリスで生まれる。ラインホルト・メスナー。1944年、イタリアで生まれる。共通項は登山家。マロリーは1924年、3度目のエベレスト挑戦で消息不明となり、「登頂」をめぐって論争を巻き起こす。75年後に遺体がほぼ完全な形で見つかったが、論争は決着していない。メスナーはエベレストを無酸素単独登頂。「ヒマラヤより高い山に登ることは不可能だし単独行より少人数の遠征などありはしない」【注】と語って山を降りる。マロリーは多くの謎を残したことでエベレストの神話となり、メスナーはすべてをやり遂げたことで神話とはならなかった。

2人の、おそらく不世出の登山家が「エベレスト登頂」の謎をめぐって語り合う。メスナーが、ある時はマロリーの目となり、ある時は天空を飛ぶ鳥の目となり…。それは1999年のマロリーの遺体発見時のもようから始まる。こんな風な語り口だ。

 「もう何週間も前から私を探していたという者たちが、私がひっそりと憩っているこの場所に突然やってきた」

 マロリー=アーヴィン調査遠征隊の隊員が目にした、標高8250㍍のテラスの上に横たわる「白くて細長い奇妙な物体」-。それが、マロリーのほぼ完全な遺体だった。うつぶせで、鋲靴をしっかりとはいていた。背中はむきだしで白い大理石のようだったという。

 一転、舞台は1924年へと移る。頂稜を行くマロリーとアーヴィンを目撃したのは、地質学者でもあったオデルである。

 
マロリーは2度死んだ_002のコピー.jpg

 「頂上がはっきり見えた。頂上ピラミッド手前の、上から二つ目の段差の下に、黒点を一つ見つけた。それは岩の段差に近づいていった」

 マロリーが挑んだ稜線はヒラリー・ルート(南東稜)とは反対側の北稜だった。ここには岩の難所がある。いわゆる第2ステップで、この垂直の壁を登るか、それとも北壁を巻くか。どちらも困難であることに変わりはない。オデルが見たのは第2ステップの下部だったのか、それとも上部だったのか。第1ステップの近くだったのか。第2ステップに取りつくところを見たと証言するが、疑問視する声は多い。そしてここが議論の分かれ目になっている。第2ステップを越えれば頂上まで約250㍍、ほぼ平坦な稜線が続くだけだからである。もしマロリーが登頂を果たし、下山中の姿をオデルが見たのだとすれば…。

 1933年には別の遠征隊によってピッケルが見つかる。第1ステップの手前、マロリーの持ち物と分かる。だが、謎を解く鍵にはならない。謎は深まるばかりだった。その後も遠征隊が続々とエベレストに乗り込む。1953年、ヒラリーとテンジンが、南面からの登頂に成功する。中国は1960年に大規模な遠征隊を送り込み、マロリー・ルートから登頂したと発表するが、メスナーは疑問を呈する。第2ステップを人間ばしごで乗り越えた? 本当だろうか。登頂は深夜だったというが、これも本当だろうか…。だがその一方で、だれもマロリーの遺体に気づかない。

 焦点は、マロリーが第2ステップを越えたかどうかだ。メスナーはオデルにも直接会い、確かめる。そしてメスナーとしての結論を出す。とてもそこまで書くわけにはいかないだろう。ぜひ自分の目で確かめてほしい。

 それにしても、神は一人の人物に二物も三物も与えるものだ。細かい事実関係で疑問点はあるというものの(訳者自身が、あとがきでそう書いている)、一流の登山家による縦横無尽の筆さばきには感心する。意味深なタイトルの意味も、読めば分かる。

 ところで「2度死んだ」マロリーは、これで永遠の眠りについたのだろうか。いや、マロリーはきっと今もエベレストの風になって山稜を漂っているに違いない。神話は終わってはいないのだ、と思う。

 

【注】「ラインホルト・メスナー自伝 自由なる魂を求めて」から。

  「マロリーは二度死んだ」は山と渓谷社刊。1600円(税別)。初版第1刷は2000年8月20日。ラインホルト・メスナーは南チロルに生まれ、8000㍍峰14座すべてを登頂。冒険家としても知られ、グリーンランド、南極、東チベットを徒歩で横断した。「自伝」はTBSブリタニカ刊、2500円(税込)。初版第1刷は19921120日。

マロリーは二度死んだ

マロリーは二度死んだ


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Jetstream777

謎に包まれていますね!
by Jetstream777 (2010-04-20 22:03) 

asa

≫jetstream777さん
メスナ―は一定の結論を出していますが、まだまだ謎に包まれていると思います。
by asa (2010-04-20 22:11) 

KOMKOM

私も途中まで読んだのですが積読状態のままなんです。
また再読したくなりました。
by KOMKOM (2010-04-20 23:23) 

asa

≫KOMKOMさん
確かに、構成が少し入り組んでいる感じはします。
しかし、一流の登山家でなければ書けない1冊であることも確かだと思います。
by asa (2010-04-21 06:22) 

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