中国山地幻視行~窓が山・虫のごとく斜面を這う [中国山地幻視行]
中国山地幻視行~窓が山・虫のごとく斜面を這う
啓蟄の3月6日、土中から這い出た虫のごとく、急斜面に取り付いた。
窓が山。中央に大きなキレットがあり、ピークを二つ持つ。登頂の楽しみが二度味わえるという良さも持つが、屏風のようにそそり立つ山容。標高は700㍍ほどにすぎないが、魚切からの急登はなかなか手ごわい。そのうえ、最近は奥畑からの中央登山道が人気があるらしく(ピークまで30分ほどで着いてしまう)、1時間半はかかる魚切コースは敬遠されがちのようで、道も荒れている。
登山口を過ぎると、山道はイノシシが掘り返した跡が続く。倒木が行く手をふさぐ。辛抱して登ると、頂上に近くなるほど傾斜が急になる。最後は岩登りである。視界はない。
西峰のピークで一瞬の眺望を楽しんだ後、キレットの底へ向かう。途中、終戦前年のゼロ戦衝突事故の犠牲者を祭る小さな祠の案内板。通るたび、粛然とした思いになる。
鎖場があり、再び登りにかかる。海側の眺望が開けると東峰の小さな広場。見上げると雲一つない。最高の天気だ。海が輝いている。足元の魚切ダムの湖面も、陽光がきらめく。
帰りもまた、二つのピークを経由して下った。西峰が東峰より高いが、その差はわずか60㌢。ほぼ相似形と言っていい山容が、戦時中のゼロ戦激突でもわかる通り、急峻にそそり立つ。興味深い山である。