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中国山地幻視行~深入山・夏の花を見に行く [中国山地幻視行]

中国山地幻視行~深入山・夏の花を見に行く

 8月23日、深入山に向かった。夏の花に出会うためである。このところ天候不順で、この日も曇り予想だったが雨が降らないだけまし、と車を走らせた。
 現地着午前9時半。曇り、気温32度。風はなく蒸し暑い。先が思いやられた。

 キキョウは今が季節だった。山道の両側に、案内人のように並んで咲いていた。時折、ナデシコ。ツリガネニンジンやワレモコウも地味にたたずんでいた。それにしても暑い。
 山頂までたどり着き、昼食の時間にしていると、男性が登ってきた。言葉を交わすうち、山頂のすぐ下にあるオレンジの花は何でしょう? と聞く。花のある場所へ行ってみた。鮮やかなオレンジ色の平べったい花弁。吉和冠で見た花だった。その時は名前を調べたが、とっさには思い出せなかった。そのように伝えた。
 山頂から南側に回り込む。あずま屋へ向かう道だ。このあたり、例年ならマツムシソウがたくさん咲いているが、今年はちらほらだった。花弁が傷ついて痛々しい。何があったのだろう。

 駐車場のわきにある売店で開花状況を聞いてみた。ナデシコは、今年は早くから咲いていたそうだ。もう終わりに近い。マツムシソウはこれからだという。痛ましい状況を伝えると、首をかしげていた。コオニユリが咲いていないのも謎だった。
 オレンジ色の花も聞いてみた。フジクロセンノウ。ナデシコ科。節黒仙翁と書く。花らしくない名なので、覚えきれない。中国が原産のよう。日本では種では増えず、挿し木などが必要という。あの山頂下のフジクロセンノウは、どうやって株を増やしたのだろう。
 ある場所でサギソウを鑑賞した。すでに周りが踏み荒らされていたので、細かい場所は書かないでおこう。

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薄曇り、蒸し暑く風はない

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キキョウの競演

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キキョウの競演

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白いナデシコ。初めて見たが珍しくはないようだ

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ナデシコとキキョウ

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急登を登りきると、山頂が見える

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恐羅漢はかすんでいた

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マツムシソウ

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ナデシコ

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フジクロセンノウ

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深入山の山頂。正面は臥龍山

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サギソウ


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壮大な物語、重量感は今一つ~映画「神々の山嶺」 [山の図書館・映画館]

壮大な物語、重量感は今一つ~映画「神々の山嶺」


 夢枕獏の壮大な冒険小説を、仏映画界が谷口ジローの画で映像化した。阿部寛、岡田准一で2016年に実写映画化された時もそうだったが、今回もどこか緊迫感に欠ける。原作の行間ににじむ冒険行のひりひりした感じがない。今回の仏作品は、特にその感が強い。

 ストーリーの骨格はあまりにも有名で、今更紹介することもないが、少しだけ触れる。
 主人公は孤高のクライマー羽生丈二。おそらく、谷川岳・一ノ倉沢「三スラの神話」で世に出た森田勝が原作者の頭にあったであろう。もちろん、そのままなぞってはいない。夢枕獏の造形力が存分に発揮されている。羽生の横を通り過ぎたもう一人の登山家がいた。長谷常雄。これはどう見ても、長谷川恒男であろう。美しいクライミングで知られ、商業主義ともよく付き合った。森田とは真反対の人格である。
 しかし、夢枕の原作では、長谷は全くのわき役である。羽生の引き立て役に徹し、グランドジョラス北壁であっけなく死んでしまう(実際にこの壁で死んだのは森田)。
 この二人の物語に若い写真家・深町誠が絡み、「マロニーはエベレストに初登頂したのか」という登山界永遠の謎が展開する。舞台回しの小道具は、羽生が持つコダック・カメラ。エベレスト山頂手前で見つけたマロニーの凍死体から持ち帰ったのだという。

 マロニーの謎については、ラインホルト・メスナーの「マロリーは二度死んだ」が白眉である。マロリーは1924年、3度目のエベレストで行方不明となり、75年後にほぼ完全な形で発見された。これが「エベレスト初登頂者はマロリーではないか」というセンセーショナルな議論を巻き起こしたが(メスナーの意味深なタイトルの意味はここにある)、メスナーは登山家らしい冷静な判断を積み上げ、マロリーは第二ステップ手前で敗北し下山中に死亡した、と結論付けた。
 羽生はマロリーの後を追うようにエベレスト山頂を目指し、深町は随行者として写真を撮り続けた。しかし、天候は急速に悪化して…。果たして羽生は山頂を踏んだのか、というマロリーと同じ問いが駆け巡る。
 山岳風景はとても美しい。しかし人間の、時にどろどろとした葛藤はほとんど見えない。それが重量感や厚みを、見るものに感じさせないのが残念。
 2021年、仏、ルクセンブルグ合作。

【参考文献】「神々の山嶺」(夢枕獏著、集英社)▽「マロリーは二度死んだ」(ラインホルト・メスナー著、山と渓谷社)▽「狼は帰らず アルピニスト森田勝の生と死」(佐瀬稔著、山と渓谷社)▽「長谷川恒男 虚空の登攀者」(佐瀬稔著、山と渓谷社)


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