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中国山地幻視行~二葉山・尾長山 [中国山地幻視行]

中国山地幻視行~二葉山・尾長山

 

 200㍍に満たない山の縦走である。といっても、るんるんで、とはいかない。それなりにひと仕事である。

 130日。広島駅北口。見上げると正面に銀色の塔が見える。仏舎利塔である。仏舎利とは釈迦の遺骨を指す。インドのネール首相が1954年、平和を祈念して日本に幾粒かの釈迦の遺骨を寄贈したといわれ、そのひと粒がこの仏舎利塔にも入っていると、市は説明している(本当かどうかは分からない。ネール首相の「寄贈」を受けて、このころ全国にいくつかの仏舎利塔が建てられた)。「仏舎利塔」では宗教色が出るため市は「平和塔」と命名しているが、一般には「仏舎利塔」で通っている。

 その仏舎利塔をまずは目指す。広島駅の北側に広島東照宮があり、境内を突き抜けて石段状の山道に入る。300段ほど登った中腹あたりに金光稲荷奥宮があり、広島の市街地がよく見える。さらに登ると二葉山(139㍍)の山頂広場に飛び出し、目の前に仏舎利塔が建つ。

 車も通れる舗装道路を下ると宅地が広がる。しばらく行くと右手に大きな寺があり、境内を抜けて裏口に回ると、細い山道に出くわす。ここから結構な急登である。立ち木をつかみ、喘ぎながら登ると、左手の谷に赤い実。タマミズキである。珍しくこの時期に実をつける。しばらく眺めて歩を進めると道はなだらかになり、やがて尾長山(186㍍)の頂に着く。

 先ほど通った二葉山の山頂が望め、その先に市街地が広がる。広島はデルタ地帯で地盤が軟弱なため高層ビルが少ない地域だったが、近年は建築技術の進歩のせいであろう、高層化が一段と加速していることが分かる。帰途はそのまま広島駅へ向かった。

 

 

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赤い鳥居をくぐって奥宮へ

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戦時下では高射砲陣地があったらしい。見晴らしのきく丘だったためだろう


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二葉山から市街地を展望

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仏舎利塔

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尾長山のふもとにある蓮照寺。この地に多い浄土真宗でなく日蓮宗だった


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境内を抜けると山道

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タマミズキの赤い実

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尾長山から。右手前が仏舎利塔

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中国山地幻視行~窓ヶ山・冬の広島湾は鈍く光って [中国山地幻視行]

中国山地幻視行~窓ヶ山・冬の広島湾は鈍く光って

 

 121日。西峰の頂上に立つと、広島湾は遠く光っていた。空は快晴だが、何とも言えない鈍い光を放っていた。冬らしい、といえばいえる重く鈍い光景であった。

 …などと、感慨に浸っていると、背後に人の気配。「これから東峰に行きますか」と問う。「いや、私はここまで。この下のおんな岩というところで、昼飯を食います」と答えた。「ああ、なんともったいない」とその男性は笑ってつぶやいた。確かに、この窓ヶ山(711㍍)、名前の由来として「キレット=窓」説もあるぐらいで、山頂付近に巨大なキレットがある。そこを渡れば二度の登頂気分を味わえる。一度登れば二度おいしい山。しかし、この日は別の要件を抱えていたため、その楽しみは後日とした。

 それにしても、例年ならこの季節、山頂付近は残雪にまみれているはず。しかし、今年はその気配もない。降れば降ったで手はかじかむし、愚痴の一つも出るのだが、降らなければ降らなかったで、やはり愚痴の一つも出る。

 おんな岩で陽を浴びながら昼飯を食った後、ぶらぶらと下った。山頂直下の岩場には、真新しく太いロープが張ってあった。登りでは使わなかったが、下りでは便利だった。

 ふもとまで下り、車に荷物を片付けていると、先ほどの男性が下ってきた。「早いですね」と声をかけると、西峰から東峰に向かい、二つの峰の間にある山道を下ったという。「相当、荒れてましたね」といっていた。それはそうだろう。この山の周辺では10年余り前、豪雨による鉄砲水が出て山麓は壊滅的な打撃を受けた。その後、巨大な砂防ダムができ、くだんのルートをたどる人はほとんどいないはずだ。私も10年以上、そのルートを歩いていない。

 思わぬ昔ばなしに花が咲いたひと時だった。


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この地図では、西峰を「本峰」として紹介している

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山名の由来や、「ゼロ戦激突」の秘話など。ゼロ戦の話はこのブログでも紹介した

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山頂直下、岩場が現れる

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山頂まであとわずか。標識の文字は消えかかっていた

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鈍く光る広島湾

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真新しいロープが設置してあった。登りは使わなかったが、下りでは便利だった

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昼飯を食った「おんな岩」は、この巨岩の上

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それにしても、雪がないなあ


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中国山地幻視行~宮島・弥山 冬の日の落ちるのは早い [中国山地幻視行]

中国山地幻視行~宮島・弥山 冬の日の落ちるのは早い

 

 ひとしきり広島湾を見渡して展望台の階段を下りていると、声をかけられた。顔を上げると、会社で働いていたころの同僚であり、退職後も山に同行させてもらっているUさんだった。そばには同行者らしき男性が一人。年初めの登り初めはここ宮島の弥山(530㍍)と決めている。Uさんも同じ心境らしかった。展望台でしばらく話した後、山を下った。

 1月9日。この日は快晴とはいかず、広島湾は鈍く光っているのみだった。時折、上空を飛ぶ岩国基地の戦闘機の爆音が煩わしかった。離陸した米軍機はいったん広島湾に出て大きく左旋回し、中国山地を越えていく。先には朝鮮半島がある。その際の通り道が弥山になるのだ。この日は特に多かったようだ。米朝関係の緊張度が増せば、訓練も増えるのだろうか。

 大聖院から登り、下った。ほとんどが石段で、登りはきつい。念のためいえば、稼がなければならない標高差は山の高さと一致する。つまり、スタートは海抜ゼロ㍍地点である。が、下りは快適だ。午後の下りで出会ったのはほとんどが外国人だった。そういうご時世らしい。大聖院そばまで下りると、枯れ枝の赤い実が気になった。冬の日の落ちるのは早いもので、わずかな温かみを帯びた陽光が、その実を照らしていた。鐘が一つ鳴った。わびしさを感じさせた。

 

 

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一見、高層建築か何かの現場のようだが、大鳥居補修作業のための覆い

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午前の厳島神社。観光客が記念撮影に興じていた

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仁王門。写真を撮っていると、男性が足早に追い越していった

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山頂から

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厳島の戦の最後の合戦場、駒が林。立てこもるには格好の場

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弥山の山頂。集う人たちを樹上のカラスが1羽見守っていた

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山頂の直下にある水掛地蔵

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宮島と本土を結ぶ航路は15分ほど

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赤い実に陽があたる

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ひと気のない参道に、午後の影が長く伸びていた

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