中国山地幻視行~寂地山・そぼ降る雨に打たれて [中国山地幻視行]
中国山地幻視行~寂地山・そぼ降る雨に打たれて
たどり着いたそこは、思い描いた光景とは全く違っていた。冷雨に煙り、樹間を抜ける風は強かった。気温計は10度あたりを指していたが、体感は5度を下回ると思われた。
草原に目をやると、目当てのものはあった。しかし、そぼ降る雨にうなだれるように花弁は閉じたままだった。
朝が遅かったため、とっくに昼を過ぎている。がっかりすると同時に空腹感がやってきた。雨をよけるものは何もない。ザックから握り飯を取り出し、ほおばった。黄色のレインウエアを着た男性が、そばをすり抜けていった。
4月26日、山口県の最高峰、広島との県境近くにある寂地山(1337㍍)。カタクリの花を見にいったが、目算は外れた。レインウエアを通した冷たい雨の感触だけが記憶に残った。すぐに下山にかかった。皮肉なもので、中腹まで下ると薄日が差し始めた。あのカタクリは、花開いただろうか。気になったが、戻って確かめるほどの気力はもうなかった。路傍にネコノメソウが咲いていた。
中国山地幻視行~旧寺の枝垂れ桜・白木山 [中国山地幻視行]
中国山地幻視行~旧寺の枝垂れ桜・白木山
春山の季節である。中国の表現では「山笑う」という。さて、どこへ登ろうか。頭に浮かんだのは、ある山のふもと、旧寺の境内の枝垂れ桜である。今頃、咲いているのではないか。
4月12日、白木山に向かった。登山者はぼちぼち。季節としては暑くもなし、寒くもなし。いいころ合いである。
前回、3月に登った際には霞がかかって展望はなかったが、この日は広島湾までよく見えた。北に目を向けると、深入山の特徴的な山容が確認できた。山頂付近には馬酔木の小さな白い花が満開であった。下りに差し掛かるとピンクの馬酔木の花。これも自生だろうか。足元には枯葉に埋もれそうな紫の小さな花。名前は分からない。
のんびりと下り、ふもとの寺へと向かった。門構えの看板はにじんで読みにくいが「順覚寺」とある。門をくぐってすぐ右側に、その枝垂れ桜はある。ちょうど満開であった。静かな境内でしばらく眺め、家路へと急いだ。寺の外壁には、白い椿が楚々として佇んでいた。
春を満喫した一日~四季・彩時記 [四季・彩時記]
春を満喫した一日~四季・彩時記
「散り始めましたね」
大きなカメラを持った男性が声をかけてきた。「けさほどは、まだそんなでもなかったんですが」という。
広島県湯来町にある湯の山温泉のしだれ桜。別名「竹下桜」。竹下さんちの庭に咲くから、らしい。比較的若い樹で、花が小さい。
気温が20度を超した。腰が落ち着かない。早く行かないと、すべて散ってしまいそうだ。そんな思いに駆られて、中国山地に車を走らせた。湯の山温泉から、安芸太田町の旧JR可部線安野駅へ。既に廃駅だが、「花の駅公園」として知られる。桜に桃、レンギョウが春色を競う。
なんとか、春に間に合ったなあ。そんな一日。