中国山地幻視行~窓が山・キレットを渡る [中国山地幻視行]
中国山地幻視行~窓が山・キレットを渡る
何度も書いたが、窓が山は二つのピークを持つ。間には大きなキレットがある。いつもは魚切の方からルートをとり西峰に向かう。そこから東峰まで往復し、下山する。今回もそうした。
10月15日。気温18度。やや肌寒い。地味な登山口から入り、切り通しをくぐる。強い風が吹き抜け、寒気がしみた。後はひたすら登りである。単独行なのでクマが怖く、ラジオをつけっぱなしにした。クマよけ鈴が下げてあるが、古びて音がほとんどしない。ひとしきりの急登の後、頂上直下の岩登りである。ザイルが取り付けてあるが、登りで使ったことがない。下りではそれなりに便利である。
西峰頂上から見る広島湾は、鈍い色を放っていた。ここからの風景はいつも鈍色と記憶する。なぜだろう、と思ったがあまり深くは考えず、キレットの底へと下った。戦時中にゼロ戦で激突した兵士の社の案内板を横目にひたすら下る。巨岩の転がる陰鬱な谷間を過ぎると鎖場に出くわし、登りが始まる。鎖に頼らずとも通過は可能である。
東峰には誰もいなかった。コッヘルとガスバーナーを取り出し、昼食の準備をした。天上天下唯我独尊、と思いきや、男性が一人登ってきた。どうやら、東峰のふもと奥畑かららしい。
二つのピークを比べると、標高においては西が1㍍高く711㍍。ただし、頂上付近が開けている分、眺望は東がすぐれている。しかし、この山の最大の魅力はキレットを渡る醍醐味が味わえることである。
西峰まで引き返すと、男性が一人昼食をとっていた。そばに腰掛けると、この山は初めてという。東峰までどのくらいか、と聞かれ片道25分くらい、と答えた。多少の余裕を持たせた時間であった。うなずいていたのでその後、キレット渡りに挑戦したことだろう。
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