中国山地幻視行~窓ヶ山・冬の広島湾は鈍く光って [中国山地幻視行]
中国山地幻視行~窓ヶ山・冬の広島湾は鈍く光って
1月21日。西峰の頂上に立つと、広島湾は遠く光っていた。空は快晴だが、何とも言えない鈍い光を放っていた。冬らしい、といえばいえる重く鈍い光景であった。
…などと、感慨に浸っていると、背後に人の気配。「これから東峰に行きますか」と問う。「いや、私はここまで。この下のおんな岩というところで、昼飯を食います」と答えた。「ああ、なんともったいない」とその男性は笑ってつぶやいた。確かに、この窓ヶ山(711㍍)、名前の由来として「キレット=窓」説もあるぐらいで、山頂付近に巨大なキレットがある。そこを渡れば二度の登頂気分を味わえる。一度登れば二度おいしい山。しかし、この日は別の要件を抱えていたため、その楽しみは後日とした。
それにしても、例年ならこの季節、山頂付近は残雪にまみれているはず。しかし、今年はその気配もない。降れば降ったで手はかじかむし、愚痴の一つも出るのだが、降らなければ降らなかったで、やはり愚痴の一つも出る。
おんな岩で陽を浴びながら昼飯を食った後、ぶらぶらと下った。山頂直下の岩場には、真新しく太いロープが張ってあった。登りでは使わなかったが、下りでは便利だった。
ふもとまで下り、車に荷物を片付けていると、先ほどの男性が下ってきた。「早いですね」と声をかけると、西峰から東峰に向かい、二つの峰の間にある山道を下ったという。「相当、荒れてましたね」といっていた。それはそうだろう。この山の周辺では10年余り前、豪雨による鉄砲水が出て山麓は壊滅的な打撃を受けた。その後、巨大な砂防ダムができ、くだんのルートをたどる人はほとんどいないはずだ。私も10年以上、そのルートを歩いていない。
思わぬ昔ばなしに花が咲いたひと時だった。
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