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中国山地幻視行~吉和冠・3月の雪 [中国山地幻視行]

中国山地幻視行~吉和冠・3月の雪

 

 3月13日、吉和冠。登山口の鉄橋を渡ると、雪が舞い始めた。すぐに谷の木々が白く霞んだ。「やめようか…」。橋を引き返してひと思案していると、少し小降りになった。3月である。このまま降り続くことはあるまい、と思い直して再び登山道に足を踏み入れた。

 風が冷たかった。厳冬のようだった。手袋はスリーシーズン用しか持っていなかった。手先が凍えるようだ。壊れかかった木橋の上にも、うっすら雪が積もっていた。さらに行くと、崖の陰にはツララが下がっていた。

 雪は小降りになったが、登山道の雪はどんどん深くなった。そのうち、雪を踏むと「ジャリ」と音がした。半分凍っているのだろう。風が冷たい。クルソン岩への分岐がある四辻まで来ると、足首まで埋まるほどだった。しかし、登れないほどではなかった。

 山頂直下の急登にかかる。とたんに雪の深さが増した。ごうごうとうなる風の強さと冷たさ。ここまで来ると、道がどこにあるのかもわからなかった。やがて、ヒザが埋まるほどの雪になった。

 おそらく、日本海から吹き付ける風が直接、頂に当たっている。登っているのは山の風裏にあたるルートだ。山頂への急登が吹き溜まりのようになっているのだろう。それにしても、吹き降ろす風は尋常ではなかった。シベリアから渡ってきた風のようだった。

 時計を見ると、登り始めから2時間半たっていた。これまでの経験からすると、夏ならあと20分ほどだろう。しかし、この状況ならその倍はかかると思われた。いや、もっとか。それに、山頂付近は吹きさらしで身をよける場所もない。手袋、防寒着など装備も不十分だ。膝まで埋まる雪ならカンジキ、アイゼンも必要だ。

 撤退を決断した。

 登山口まで戻り、気温計を見ると3度だった。風が吹きすさぶ山頂付近は、体感でいえば氷点下であったことは確実だ。あと少し、という思いはあったが、やめて正解だったろう。


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木橋の上にうっすら雪が

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杉林の道にも

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なんとツララが

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雪が深くなってきた

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四辻まで来ると、足首まで埋まった

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頂上直下、ここで断念。写真では分からないが、かなりの急登である


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