究極のサバイバル記~山の図書館 [山の図書館・映画館]
究極のサバイバル記~山の図書館
「エンデュアランス号漂流記」(アーネスト・シャンクルトン著)
アーネスト・シャンクルトンは英国の探検家である。1901年にスコット大佐のディスカバリー号による南極探検に参加、極点まで120㌔に迫ったが、飢餓と吹雪で引き返した。アムンゼンが極点に到達、スコット隊が涙をのみ、さらには大量の犠牲者を出したテラ・ノヴァ号探検の10年ほど前のことである(この時のスコット隊の無残な旅は、チェリー・ガラード著「世界最悪の旅」に詳しい)。
シャンクルトンは、1914年12月、南米ホーン岬の東、南ジョージア島にいた。到達が果たせなかった南極の極点は3年前、ノルウェー人によって踏まれていた。やむなくこの英国人探検家は、南極大陸横断へとプログラムを変更する。しかし、隊は横断どころか、雪と氷の大陸に近づくことさえできなかった―。
探検記としては、まれにみる面白さである。要素は二つある。一つ目は漂流記、航海記、さらに南ジョージア島を横断する際の徒手空拳、山岳地帯突破=登山記=のおまけまでついているからだ。これほど最悪の環境を突破し生き延びたのが不思議に思えるぐらいの究極のサバイバル記録なのである。二つ目は、こうした厳しい自然環境と、それに立ち向かう人間たちの、ときにユーモアあふれる行動ぶりを鮮やかに描き出すシャンクルトンの筆力である。その場その場のシーンがページの向こうに立ちあがり、読むものが南氷洋に漂う巨大な氷上にいて風雪にさらされているかのような気分にさせられる。
南ジョージア島を出た隊は、やがて船は浮氷帯に入り、航行は困難を極め、動くことさえままならなくなる。氷が船体を締め付け不気味な音を立てる。氷山とともにエンデュアランス号は漂流を始める。10カ月を経て、船はついに氷の海へと沈む。南ジョージア島を出て1年後のことである。シャンクルトンたちは氷上にテントを張り、漂流を続ける。
氷山は北上する。気温の上昇とともに、当然のことながら氷は割れ小さくなる。その上で生活する人間たちの生命も危うくなる。ホーン岬の南、エレファント島上陸は、それから数カ月後のことである。この島から、小さな救命ボートを使っての南ジョージア島帰還が決行される。乗り組むのは6人。島に残るのは22人。
いったんは島の小さな湾にたどり着くが、そこから人間の居住空間まで向かうには山岳地帯と氷河を越えなければならない。4500フィートというから、標高1000㍍余りの山である。しかし、写真で見れば、究極の鋭角を持つ岩稜帯である。これを素手で越えたとすれば、驚くばかりだ。
シャンクルトンの隊は、3人の犠牲者こそ出すがなんとか生還を果たす。第1次大戦に重なるころ、600日にわたるサバイバルである。これほどの生への執念、頭が下がる思いだ。そして、面白い。
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「エンデュアランス号漂流記」は中公文庫、定価781円(税別)。初版第1刷は2003年6月。
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